ゲノムが拓く新しいがん医療
【初めは偶然見つかった抗がん剤】がんの治療に抗がん剤が一般的な選択肢として採用される様になったのは半世紀前です。それらの薬は「細胞傷害性抗がん剤」と「分子標的治療薬』に分けられる。細胞性抗がん剤はがん細胞の分裂の仕組みを何らかの方法によって阻害してがん細胞の増殖を抑え死滅させる機能を持つ薬物でこれまで多くの種類が開発されてきました。細胞傷害性抗がん剤は天然物質や合成物質の中から偶然に抗がん効果を発見し開発されたものが多くアルカリ化剤(シクロホスファミド)・・・マスタードガスに由来する。薬剤のアルキル基がDNAの塩基に結合してDNAの複製を妨げます。代謝拮抗剤(メトトレキサート、フルオロウラシル、シタラビン)・・・DNA合成に必要な材料である核酸や葉酸の合成を阻害してDNAやRNAをつくれなくする働きを持つ物質です。消化器がんで使われているフルオロウラシルはウラシルに似た構造を持ちウラシルに代わってRNAに取り込まれてDNAの合成を阻害する。抗がん性抗生物質(ドキソルビシン、アクチノマイシン)放線菌が産生する物質から抽出されてのち抗がん剤となった。植物アルカロイド(ビンククリスチン、ドセタキセル)、白金製剤(シスプラチン)・・・使っていた白金電気が溶液と反応して大腸菌の細胞分裂を阻害していることから抗がん剤となった。【細胞傷害性抗がん剤と分子標的薬】従来使われてきた細胞傷害性抗がん剤の作用の仕方はDNAに作用して合成や修復を妨げるもの、核酸の合成や修復を阻害するものいなどがありますがいずれもがん細胞だけ作用するわけではありません。がん特異性が低く、正常細胞にも影響を及ぼすため長期投与は困難であり思い副作用を伴うことも少なくないです。これに対してがん特異性が高く、長期投与も可能な抗がん剤が分子標的薬である。分子標的薬はやがん化やがん細胞の増殖にかかわるタンパク質や酵素の分子に的を絞って狙い撃ちしその働きを抑えることによってがんを攻撃する。分子標的薬には低分子の化合物を使用する低分子薬とがん細胞に発現している増殖にかかわるタンパク質の抗体をつくりこれによってがんを制圧する高分子の抗体薬がある。【チロシンキナーゼ活性を抑える分子標的薬】乳癌の治療薬としてトラスツズマブ®ハーセプチンがあります。抗体薬としての糖タンパク質で遺伝子組み換えにより製造されたヒトモノクローナル抗体治療薬である。マウスに抗体をつくらせその抗原部位を遺伝子組み換えによってヒト由来の抗体分子に移植して作製した薬である。トラスツズマブが分子標的薬として効果を発する前庭となっているのは細胞の表面に存在するHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2)タンパク質である。このタンパク質は正常細胞では細胞の分化や増殖を調節する働きを持っているが何らかの原因でHER2遺伝子に変異が起こり細胞増殖の常にONとなりがん化が点灯する。HER2タンパク質は細胞の内から外へと細胞膜を貫通した構造を持ち、膜の内側の細胞質部分にチロシンキナーゼ勝製を持つ領域が外側の細胞表面には細胞外から増殖因子をシグナルとして受け取る領域が連なっている。チロシンキナーゼはタンパクのチロシン残基をリン酸化する酵素である。シグナル分子を受け取るとチロシンキナーゼが活性化されリン酸化をバトンにしてこれを細胞内に伝達する。これによって細胞の分化・増殖のスイッチが入る。正常細胞では適切に調節されていますが遺伝子に異変が生じてチロシンキナーゼの活性化が止まらなくなると細胞増殖が亢進してがん化が始まります。チロシンキナーゼの働きを抑えて細胞の異常増殖を抑制するタイプの薬です。HER2分子を標的にこれに特異的に結合する抗体としてデザインされたトラスツズマブはHER2の細胞外の部分に結合し細胞内のへのシグナル伝達を妨害し結果的に細胞増殖をストップさせる。同時にNK細胞や単球を呼び寄せその抗体が結合している細胞や病原体を殺傷する働きを「抗体依存的細胞障害(ADCC活性)」という。【乳がん治療は個別化へ】HER2は転移性乳がん患者のおよそ25%~30%で過剰発現がみられ予後不良である。手術前の乳がんであれば針で組織の一部を採取して手術した場合では切り取った組織でHER2遺伝子とHER2タンパク質の量を検査する。【広がる分子標的薬の選択肢】さらに低分子化合物としてラパチニブ®タイケルプがありトラスツズマブが細胞外の部位に結合しシグナル伝達を阻害するのに対して細胞内の部分に結合する。他にぺルツズマブ®パージェタも抗体医薬ですが別の部位に細胞の外で結合して作用します。一方トラスツズマブとエムタンシンの複合体医薬®カドサイラもある。ここではトラスツズマブは抗がん剤を正しく標的に導き送り届けるガイドと輸送の役割を担当している。さらに細胞周期を制御不能にして無制限な細胞増殖を起こす選択的サイクリンキナーゼ(CDK)4および6を阻害する経口薬バルボシク®イプランスがありHER2陰性の進行性乳がんにも選択性が広がった。【副作用と治療抵抗性】EGFR(上皮成長因子受容体)の阻害剤は上皮細胞が増殖するシグナル受容体を阻害するため正常な歯肉に対しても作用して皮膚炎や肺の粘膜異常である間質性肺炎や肺線維腫を起こす。ゲフィチニブ®イレッサなどがある。薬剤抵抗性もある。【融合遺伝子】ALK遺伝子HER2と同じく受容体型チロシンキナーゼの仲間である。」その遺伝子が何の関係もないまま別の遺伝子EML4と融合するとチロシンキナーゼ活性が異常に更新して細胞増殖が起こりがんの原因になることが明らかになりました。(EML4-ALK癒合遺伝子)ALK阻害剤クリゾチニブ。あとはBCRーABL癒合遺伝子は慢性骨髄性白血病で認められる。これの薬がイマチニブ®グリベックである。【遺伝子を解析して治療薬をつくる時代】最近は遺伝子の解析の技術が進み肺癌の原因となる遺伝子異常とその割合が調べられています。肺がんは分子標的薬ゲフェチニブ、KRAS(10%)、ARK融合遺伝子(4%)による肺癌はクリゾチニブ、アレクチニブ、せりチ二ブなどがあり副作用も少ない。【がんの分類は原因遺伝子を根拠に】原因遺伝子を目印として分類していくと肺癌で少数の人に見つかるBRAF遺伝子の変異は悪性黒色腫では日本人で30%大腸がんでは5~10%。ALK癒合遺伝子ではEMLA4と融合すれば肺がん、NPM遺伝子と融合するとリンパ腫、VCL遺伝子と融合すると小児の腎臓がん、FNIと融合すると卵巣肉腫を起こします。【細胞内で遺伝子に直接働く核酸医薬】分子標的薬が効果を発揮する例は変異した遺伝子による細胞表面のタンパク質が標的でした。ところが抑えたい標的がいつも細胞表面に存在するとは限りません。抗がん剤も治療による耐性があらわれて効かない人もいます。効果がない人はDNAを調べるとRPN2という遺伝子が強くはたらいていました。子遺伝子がちよく働くと乳がん細胞は抗がん剤を細胞外に排出するようになり抗がん剤に対する耐性を獲得するのです。これは核内に核内にあり分子標的薬では難しい。そこで核酸医薬の登場です。従来の抗がん剤や分子標的薬では狙えなかった細胞内の遺伝子に直接働きかける核酸分子です。PPN2遺伝子に対して最も得働く核酸医薬はsiRNA(2本鎖RNA)で標的遺伝子に対して働くsiRNA(長い2本鎖RNAが酵素によって21~25塩基に短く切断されたもの)で人工的に合成することが出来る。siRNAは標的の遺伝子から作られたmRNAをRNA干渉の仕組みで特異的に切断して破壊します。その結果mRNAからの翻訳が不可能になりタンパク質をつくることが出来なくなるのです。【核酸医薬に運搬役が不可欠】しかし核酸医薬にがあります。そのまま投与すると生体内で分解され標的である固形がんに届かないことです。RPN2遺伝子を働かないようにするsiRNA核酸医薬は「TDMー812」です。siRNAと運搬役であるA6K分子の複合体である。これが使えるようになればほかの臓器に転移がある進行した乳がんの腫瘤に直接投与して効かなくなった抗がん剤が再び効果を発揮するようになることが期待されます。乳がんで「トリプルネガティブ」の患者さんが10~15%存在します(がん抑制因子P53に変異が生じている)。核酸医薬はトリプルネガティブの患者さんにも効果をもたらす可能性がある。広島大学では手術が出来ず化学、放射線、免疫療法で根治が難しい患者を対象に治療効果を高め副作用を抑え耐性胃かかわるタンパク質PAIー1を分解する「TMー5614」の臨床試験を始めた。【分子標的薬の問題点】肺がんの治療でゲフェチニブ®イレッツサはEGFR遺伝子の阻害剤であるが半年過ぎると効かなくなるどころか間質性肺炎になることがある。なぜか?RGFR遺伝子の別の遺伝子の別の部位に新たに突然変異が出来てクリとの結合が低下し再びEGFRの活性が上昇します。それとEGFRとよく似たタンパク質キナーゼがゲフェチニブの溶世により拮抗的に増えて別ルートでキナーゼを活性化させがんの再発に導くことです。
2026年05月20日 14:01
