③脳回路と認知の仕組みからみた精神疾患
【脳の配線変化が精神疾患の一因?】脳の疾患には神経変性疾患と精神疾患があります。精神変性疾患とは記憶ができないなどの症状が出るアルツハイマー型認知症では多数の神経細胞が細胞死を起こして脳の顕著な萎縮がみられます。当然脳内の情報処理を担う神経細胞が死んでしまうので記憶や認知などのいろんな脳機能に障害が出てしまいます。一方脳に顕著な萎縮、神経細胞死がみられないのが精神疾患だとされています。このような精神疾患の原因としてシナプスや神経細胞の働き方の変化の他に神経回路の配線の変化が考えられます。脳の領域間を結ぶ配線の数が少なかったり多すぎたり間違った相手に配線されたりする変化である。脳内の配線はすべて脳神経が発生、発達する間に自律的に構築されてます。顔が一人一人異なるように脳の神経回路の複雑な配線も微妙に一人ずつ違うはずです。何らかの原因で配線が大きく変化する、もしくは配線相手を間違えると、精神疾患の症状が現れていると考えられてます。【脳はどうやって機能しているか(ボトムアップ・トップダウン情報の統合説】精神疾患の原因解明が難しいもう一つの理由は、そもそも認知の仕組みがよくわかってないからです。脳が何かをするときの情報の流れには、ボトムアップとトップダウンの二つの方向があります。目や耳などの末梢感覚器官でとらえた情報が脳へ入力され処理される流れがボトムアップである。前頭前野などの高次脳部位で経験や記憶によって見たものが何かを予測したり、関心を向けたり、手足に運動の指令を出したりする情報の流れがトップダウンです。脳が何かを認知する過程ではボトムアップとトップダウンの情報を統合するという説が考えられている。錯視は神経回路の配線が正常でもトップダウンの予測の間違いが原因で認知のエラーが起きる。物をつかむ場合にも手を動かす運動指令のトップダウン情報と物をつかんだ触覚のボトムアップ情報を統合することで物の形や硬さを認識することが出来る。【幻覚や幻視が起こる仕組み(情報統合のバランスが崩れるのが原因か?)】錯視だけでなく実際には存在しない感覚があらわれる幻覚もトップダウンとボトムアップのバランス異常やトップダウン過剰(予測亢進)によって理解できます。感覚情報が遮断されるとトップダウンとボトムアップのバランスが崩れて目からの感覚入力がないのに、視覚認識を司る視覚野が予想トップダウンだけで勝手に活性化してみえないものが見えてしまう(幻視)【幻聴があるとき、脳で何が起きているか?】多くの統合失調症の患者さんでは幻聴の症状が現れるのですが話ことばの聴覚認識は特にトップダウン情報の影響が強いと考えられます。聴覚は情報量がとても少ないため今までの経験や記憶によって予測(トップダウン情報)でボトムアップの少ない情報量を補って認識する必要があるからです。これも聞き手が話の内容をある程度、予測できるからです。トップダウン情報が暴走することによるものでその原因の一つに神経回路の配線の変化があると考えられている。トップダウンの情報は予測などを行う前頭葉などの連合野で生み出されます。ドーパミン遮断薬は前頭葉の活動を抑えることでトップダウンの情報が聴覚野を刺激・支配することを抑え幻聴を収めるのだと考えられている。【脳の炎症で正常な神経回路が作れなくなる?】胎生期や新生児期の脳が発達する過程における神経回路の微細な変化が統合失調症や自閉スペクトラムの発症リスクになる仮説がある。脳内にある何百万の配線は遺伝子の命令で自律的に作られます。お母さんのおなかの中や生まれたてのすぐ時期は脳内の神経回路は構築中で完成していません。この時期の脳回路は非常に感受性高く、少しの酸素不足や栄養不足により影響されることが知られています。虚血性や炎症性の脳性まひが当たり錐体路と呼ばれる運動機能を司る神経回路形成が障害されるためトップダウンの情報が対称の筋肉に伝達されなかったり、筋肉の知覚情報が間違った脳部位に伝達されてしまいます。未成熟な発達中の脳は細菌やウイルス感染などによる炎症に非常に脆弱である。炎症で正常な回路設計命令が攪乱されてしまうのです。炎症の起きた時期、種類、強さの違いにより影響される脳神経回路が異なるため統合失調症、自閉スペクトラム、知的遅延、脳性まひの差が生まれると考えられている。統合失調症の患者さんではウエルニッケ野とブローカ野を結ぶ太い配線(弓状束)の数が少ないという報告がある。患者さんの一部では弓状束の変化により前頭葉に存在するブローカ野(運動言語中枢)と側頭葉にあるウエルニッケ野(聴覚言語中枢)の情報共有がうまくできず、ウエルニッケ野が勝手に活動して幻聴が起きている可能性があります。又独り言をブツブツ言う人がいますが自分の発する独り言(運動)からトップダウンの情報が聴覚認知に反映されづらいため自分の運動(独り言)によるにも関わらず自分の独り言を他人からの音声と誤認している可能性があります。
2026年10月07日 10:23
